読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。


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ときたま文学『愛のゆくえ』 リチャード・ブローティガン

今年、村上春樹の新刊『騎士団長殺し』が書店に並び、生まれて初めて村上作品を読んでから小説を読む機会が増えた。小説を毛嫌いしていたつもりはなかったけど、 

「 ノンフィクション > 小説 」

という関係を頭の中、無意識でつくっていたのかもしれない。

実際にはそんなことないんだけどね。比べるものじゃないのはわかっている。でも読む本の内容が凝ってくると、偏見も強くなるのは確かだ。

 

そう思い立ってこのブログで(ノンフィクションをウリにしているが)「ときたま文学」と称して、不定期ではあるが読んだ小説を載せていこうと思う。

 

 

『愛のゆくえ』

 

主人公は図書館員である。外界とは完全に孤立していて数年間、図書館から一歩も出たことがない。またこの図書館は極めて風変わりな図書館であり、普通の図書館で本を閲覧したり、貸出するのではなく、この図書館に来る人々はみな、思い思いに綴った本を持ち込んで来るところなのだ。

出版をするとか、人に見せるのが目的ではなく、書き上げた本をこの図書館の棚に置いて満足し帰る。それだけなのだ。

そんな図書館に住み込みをしていた主人公のもとに、ある女性が訪ねてきた。彼女は美しすぎる自分の容姿に悩みを抱いており、その悩みを綴った本を持ってきた。次第にふたりは恋に落ち、やがて彼女は妊娠するが、まだ子供を持てる準備ができておらず、堕胎することに。その手術のためメキシコにある病院まで行くのだが、、、

 

 

筆者のブローティガンは1930年代半ばに生まれ、50年代にカリフォルニアに姿を現した。この年代のカリフォルニアは世界から新しい価値観を持った若者が集まり初めていた時期で、「ビート・ジェネレーション」ニューヨークのアンダーグラウンド社会で生活する非遵法者の若者に向けて書かれる、アメリカで異彩を放った作家がいるカリフォルニアに。

ブローティガンはそうした作家たちとは相いれづ、自分の書きたいものだけを書き続け、それがあらゆる価値の転換を願う若者たちにとって理想の文学となった。しかし若者たちが社会に出て、時代が変わるとブローティガンの作品も忘れられ、1984年、銃で自殺していた死体が発見される。本に対する評価が悪くなって自殺したのかわからないが、この『愛のゆくえ』は正確に訳すと、『妊娠中絶ー歴史的ロマンス1996年』となる。生々しい「死」の表現は出てこないが、ブローティガンの「死」に対する思いは読めば少なからず伝わってくる。

現代目線で思うことは、堕胎とはそんな簡単なのか、命とは、生とは、いろいろ考えられる内容であり、現代のアンチテーゼとして、また人間の温かさや可能性が肌に伝わるように描かれていて、読んだあと幸せにしてくれる。

 

 

 


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