読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。


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『グリム童話と森 (ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統)』 森 涼子

始まりは「森」だった。

「幾つかの大きな森が今後5年以下に死んでしまうだろう。これを救うことはできない。」

1981年の夏、ゲッティンゲン大学土壌学教授ウルリヒの談話の一部。この言葉がマスコミに取り上げられ、「森の死」がその後20年間にわたってドイツ社会を揺るがした。ともなって環境保護が幅広い市民の意識として、生活スタイルとして根付いていったのである。

 

ドイツは環境保護に力を入れている国として知られている。地球温暖化やCO2削減、国際環境会議においても積極的に取り組んでいる国だ。2011年の福島原発事故の教訓を自国に当てはめ、政策を大幅に転換した国はドイツ以外1つもない。それはドイツ自国も過去の原発事故からも学んでいるからである。

ドイツの自然に興味のある人なら、ドイツは「森の国」だという印象を持つかもしれない。それほどにドイツの森は広大で美しい。

 

本書は、ドイツ市民の生活に欠かせない「森」に焦点を当て、どのようにドイツ人が環境意識を持ち、現在の環境運動へと至った歴史を読み解いていく。

 

読んでいるとナチス独裁支配体制にとって「森」は重要な意味を持っていた、と興味深い章があった。1934年「帝国森林荒廃防止法」をナチ党が発布させた。

この法律詳しく見ていくと、まず森林の面積の2.5%以上伐採することを禁じ、そして樹齢50年以下の若木も伐採も禁じた。森というのは、禿地、若木、成長木、伐採、というように姿を変えるべきではない。

ナチスの森林法は「恒常的な森」を作ること、さまざまな樹木種、さまざまな樹齢の木が入り混じって生えている自然な混合林を作ることを目指した。森は全体としてみるべきである。森というのは生命体なのだから。”

ナチスは森林法を改めることで、「森も民族も永遠なるもの、ドイツ民族の永遠性を担保として、森は恒常森林とされる。」ナチス政権でプロパガンダ的な用いられかたをしていたという。昔から、ドイツ人と森の親密さをうまく使ったと言えよう。

また「外来種が腐敗と破滅をもたらした。民族よ、森よ、この重荷が耐えられれようか。異質な種、病気の木は伐採せよ。新たな共同体と、永遠なる森を創ろう。」というスローガンを掲げ、先ほど挙げたように50年以下の若木、老木は伐採せず、劣った木は伐採する。森は不適切な樹木を伐採して、強く健全な樹木を残す。まさに民族にも当てはめたかのようで、弱者を排除して共同体を保つような仕組みが、ホロコーストを暗示されているように感じた。

 

今回はナチス政権のことを取り上げたが、近代林学を担って「森への愛」「美しい森」へと導いたワンダーフォーゲルや、グリム童話に出てくる「森」の存在、など知らなかったことが多く、得られることもたくさんあった。

久々に難く面白い本に出会えたので紹介させていただきます。


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