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読んでつくる知の体系

読んだ本、お勧めしたい本を紹介。ノンフィクションが多め。

『木版画を読む』


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”  文字をさげすむ者がいるならば

 あるいは文字を読めぬ者がいるならば

 木版画のなかに自分の姿を見ればよい。

 自分が誰で、誰に似て、

 何が自分に足りていないか、木版画で眺めなさい。”

 

この詩はセバスティン・ブラントの傑作『阿呆船』の序章の一部である。

 

15世紀のドイツではまだ人々の識字率はそれほど高くはなく、文字を読めるものは少なかった。グーテンベルク活版印刷術は世界史上最初の情報革命を築いたが、依然として「声の文化」に生きる人が多かった。

そんな中、ブラントは『阿呆船』や数々の作品に木版画を挿入し、読者への理解を深めようと工夫した。

16世紀に入ってもこの事情はあまり変わることはなかった。マルティン・ルターによる宗教改革が成功したのも、活版印刷術が駆使され、「書籍印刷なくして宗教改革なし」と言われた。しかし、新しい宗教改革の理念が社会を動かすには、それを民衆に伝わらないとならなかったが、識字率の低さを補うように木版画が用いられ、改革の理念を分かりやすく図式にしたり、カトリック教会の腐敗ぶりを絵に示すことで、民衆に伝えていった。

 

本書の『死の舞踏』の章が興味深かった。

「死の舞踏」は15世紀後半から16世紀にかけて各地の教会や、修道院墓地の壁に描かれていたが、それにとどまらず木版本や活版印刷本にまで普及する。

ちなみに「死の舞踏」とは英訳で、ヨーロッパ原語ではDance of Death 「死者の踊り」と訳せる。引用するなら「骸骨や腐りかけた死体(しかばね)が音楽に合わせて舞いながら、生きているさまざまな身分の人を死の世界に連れていく絵画」と言える。

死の舞踏と聞けばなにやら重たい、血なまぐさいイメージの絵が描かれているのかと思っていたが全く違った。死者の世界の使いとして、ガイコツがスキップをしながら人の手を取り合って、まるでダンスをしているかのよう。本書に出てくるファイアーアーベンの『死の舞踏』の木版画では1枚の絵で39人の身分のちがう人がガイコツに誘われて足を運ぶ絵が描かれている。人は身分上下を問わず死すべき存在であることがここに示されているが、明るいタッチで描かれていて面白い。

 

当時の繰り返されるペストの流行、百年戦争の災禍に巻き込まれ、宗教改革夜の人々の心理状況を端的に木版画としてあらわしている。人の記憶として残ったものが、後世に記録として残るだろう。

他にも木版画を用いて、一種のプロパガンダ的な考えを国民に伝えようとするシーンもあったり、今の社会、政治状況における自分なりの主張が感じられる作品も見られる。そのためにも世界の情勢を把握し、自国がどのような立ち位置にいるかを分かった上で、木版画にこんなにも情報をつぎ込のか、と驚く作品もあった。

 

アルブレヒト・デゥーラーの版画からこの本に出会って、新しい「木版画」というジャンルについて知ることができた。今後はルネサンス期の歴史や背景に興味があるので、その辺りの本を読んで紹介したいと思っています。